さわらの観劇ダイアリー

私が勝手気ままに舞台について喋るブログです。

劇団印象『藤田嗣治〜白い暗闇〜』

セルフアドベント企画「観劇感想アドベント

5日目

 

劇団印象『藤田嗣治〜白い暗闇〜』

 

2日目に取り上げた劇団印象の「国家と芸術家」三部作公演第一弾の作品です。

 

5日間で2つの劇団右往左往してますが、前日の戯曲に描かれた要素の一要素を繋げて書くという自分ルールを意識したらこんなことに。

 

藤田嗣治はエコール・ド・パリの代表格と言われていて、ピカソとも交友があった画家なんですが、一方で日本へ帰国後、戦争画と呼ばれる軍の宣伝や戦意高揚に利用された作品を描き、戦後には「戦争協力者」として批判の声が上がった人物でもあります。

日本が求めていると要請されて描いた作品を、日本が負ければ非難される。

抵抗すれば非国民と槍玉にあがった状況で、真に批判できた人物はほぼ存在しないのではないかと思います。

 

藤田嗣治の27歳〜59歳の約30年間の人生を描いた本作ですが、戦争に対しての国民の在り方とかもちょっと考えたりもしました。

藤田は軍人と近い画家だった上にスケープゴートにされたとされますが、彼のスタンスから見て乗り気だったわけではないと表現されていて、人は一元的に見て取れず、そしてそれを認識した上で他人を見るべきだなとは感じました。

一方で、芸術家としての藤田が、ピカソゲルニカのような、「芸術家として戦争を描くこと」に対しての視点もこの作品は書かれていると思っていて、彼の芸術家としての矜持も描いた作品だなとは思いました。

最後に彼が戦争を真正面から描こうとする姿の中で、戦死した弟子の姿が見えた時の演出がめちゃくちゃ良かったと思います。後味が良い意味で引いていて…。

 

ただ、個人的には藤田嗣治の人生をそこまで調べずに見ているので、実際、見ている場面が何年間時が経っているシーンかはよく分からず。

というのも、戦争前期・後期・末期なのがあまりセリフや描写で明示されているわけではなく、役者も老ける演技が成立していた人が少なかったように見えたので。

いや、衣装や姿で分かれよ、と言われればそれまでなのですが、対立する意見を述べる人物を置いて、双方の意見に挟まれる主人公という構図の中で、さらに、時間と共に意見も成熟していく彼らの姿をきちんと書く劇団さんなので、演技の部分でもその辺りを引っ張って欲しいなぁと改めて強く思いました。

 

あとは、個人的には亡霊の男が大好きなので、たびたび藤田の前に現れる村中という男が大好きだったのですが、彼の設定と接点から見て、一方的な嫉妬や羨望が主だった彼が、藤田嗣治の葛藤・藤田が言われていたであろう批判を表す亡霊として現れるには「藤田嗣治→村中青次」の矢印があまり見られなかったと思うので、その関係性の矢印がもっと強く見られればなぁと思いました。

あと、ベビーパウダーの話使うにあたってのオリキャラの娼婦との絡みの部分は何となくモヤモヤしていて…。その割に言葉が出てこないのですが…。

また、言葉として書けたら追記します。

 

劇団印象の次回作『ジョージ・オーウェル(仮)』は人物としても全く知らないので予備知識入れて観るかどうかちょっと迷ってますが、楽しみです。

 

話が逸れますが、第二次世界大戦前後を描いた舞台を観ていて思うのが、その戦争下での国家による抑圧とそれに翻弄される国民という構図は、現代日本で感じる窮屈さに共感するところがあるんだろうなと思うので、その部分で、観客に物語を通して感じて欲しいことを伝えやすいのかなと思っていて。

だから、今、題材として行われることが多いのかなぁと思いました。

 

私の観るジャンルが変わっただけだとも思いますけども。

明日はちょっと辛い作品なので、書けるのかしら(悩)

パラドックス定数『プライベート・ジョーク』

セルフアドベント企画「観劇感想アドベント

4日目

 

パラドックス定数『プライベート・ジョーク』(2020)

 

去年の無料配信後、パラドックス定数の最新公演があるとのことで自分が観に行ける日を全部注ぎ込んで観た作品です。

 

なにが、そこまで狂わせたんだ?と思うほどにバフがかかり、テンションも最高潮だった私は友達に宣伝して、自分負担でチケットを渡して誘ったりもしました。

久しぶりに自分がお金払ってでも友人に観に来て欲しいとお願いしました。

それほどまでに初めて生で見たパラドックス定数の公演がぶっ刺さってしまったんですよね。

 

舞台はスペイン。とある学生寮の話で、登場人物5人には名前がつけられておりませんが、それぞれにはモチーフとなる史実の人物がいます(サルバドール・ダリ、ガルシア・ロルカルイス・ブニュエルパブロ・ピカソアインシュタイン)

ダリ、ロルカブニュエルは史実でも学生寮で共に過ごしており、もしこの3人がピカソアインシュタインと出会っていたら、どんな出会いになったのだろうか。というのが起点だとどこかで主宰の野木萌葱さんが言ってたんですが、彼らという人物を知らなくても楽しめる作品でした。

 

シアターウエストの使い方としてはかなり余白があって勿体ない気もしたんですが、(おそらく)正方形で作られたその学生寮の一室は箱庭の雰囲気もあり、個人的にはあのコンパクトさで良かったと思います。

 

学生3人のわちゃわちゃ感が可愛いのなんのって感じですし、講師としてやってくる大人組2人の掛け合いも関係性のオタク的にニヤニヤしてしまうんですが、「言葉は通じるのに分かり合えない」というパラドックス定数のキャラ同士の関係性が例に漏れずあって、時代の変化に呼応するかのように、互いに対する気持ちの変化、それによる掛け合いの変化が丁寧に描かれていて感情移入するごとにしんどくなります。

 

初日観劇後に、正気保つためにつねっていた自分の左手の甲がつねりすぎて真っ赤になっていて、それほどまでに引き込まれてしまうんですよ…。

 

そもそもですね、パラドックス定数、劇団員も客演も皆演技が上手いんですよ!

無料配信時なんか3作ほど観てやっと「あれ、この人…?」と理解したほどには劇団員の演じ分けスキルが高すぎる。

舞台によってはこの演技してるの、あの戯曲の人と同一人物!?となるぐらいに芝居で見分けがつかないなんてこともありました。むしろ見た目でこの人同一人物か!?と分かったくらいなので、人間、演技うますぎると識別できなくなるのか…と驚愕した覚えがあります。

 

今はきちんと顔も名前も演技も一致してますが、それでも舞台を見ると「役者」としての彼らが消えるといいますか、その場に生きる1人の人物として現れるので、なんでこんな演技上手い男4人(+1人お休み中)も揃ってるん…?って本気で思いました。

ストレスフリーで見られるの最高だね…。(数々の虚無舞台を観てきたオタクとしての感動)

 

話逸れますが、この舞台観て以降、参考文献として書かれていた本を買い、ロルカにハマり始めています。マリアナ・ピネーダという戯曲はスペイン語から訳してみようかなとか手をつけ始める始末。

だんだんとダリとロルカの関係性にもハマっていき、なんやかんや、ひと月に一度は彼ら2人のことを調べている気します。

(これもまた参考文献コーナーが出来たり、参考サイト一覧を作ったりと、資料がたまる一方)

 

ガルシア・ロルカについては最近、彼の書いたイェルマがよくやられているなぁと思います。

いずれもし、初海外するならスペインに行ってみたいなぁと目標も出来ましたし、パラドックス定数、本当に私の人生のいろんな扉を開けている気がします。

 

ついでですが、この最近ダリとロルカの交わした手紙を元にした戯曲が海外で演じられたとか……。

どこかで輸入されてきた時には是非野木萌葱先生に演出してほしいですね……。

パラドックス定数『Nf3Nf6』

セルフアドベント企画「観劇感想アドベント

3日目

 

パラドックス定数『Nf3Nf6』(2018)

 

3日目は私の観劇人生を狂わせた舞台の話をします。

 

【あらすじ】第二次世界大戦終戦末期、とある収容所の一室。

かつては共に大学で論文を書いた二人が、ひとりはナチスドイツの将校として、もうひとりは六芒星を身につけた囚人として邂逅します。

彼らはチェスを指すごとに、互いの数年間をなぞり、そして、見えぬ未来について話し始めます。

数学という美しい学問と、似て非なる暗号解読。

何処にも逃れられない、静謐な部屋で起こる出来事とは。

 

そもそも、この舞台は現地で見ていたわけではなく、2020年、期間限定で行われた無料配信で視聴しました。

 

劇団の名前は2018年10月「蛇と天秤」で有識者フォロワーが名前を挙げていたことで知り、2019年7月には劇団主宰の野木萌葱さんが脚本の「骨と十字架」を観て、面白い観点の戯曲を書くなぁ〜とは思っていたんです。

でもまさか、劇団本公演でその真骨頂を見るとは思ってもいなかったんです。

 

野木萌葱脚本の特徴は硬派な男が多数登場することと、会話による濃厚な殴り合いだと思うのですが、これを彼女が演出し、彼女と20年近くも舞台を作り上げた劇団員が演じると、とてつもない破壊力(メンタルブレイク)が生まれるんですよね…。

 

将校と囚人、2人しかいない100分ほどの芝居で、生クリームとカツ丼一緒くたに食わされているような感情を観客は食わされます。

互いに対する執着、数学という学問を通じての友情が、彼ら2人が置かれている現状をより濃く映し出していき、観客ごと堕としていく緊張感。

 

これが映像でも伝わるので、現場にいたら自分はしんどすぎておそらく1週間くらい会社を休んでたと思います。

 

当時視聴していた時の私の感想の記録が「なんで!?」「待って」「やめてよ」をおよそ5〜10分に1回呟き、感想としてなし得ていなかったのが証拠として、この舞台が如何にメンタルブレイクしてきたのかが良くわかります。

 

それに加え、この舞台を観た当時、あまりのショックに観ていた一部が記憶から抜け、2回目の視聴の際に改めて衝撃を受けました。これは20数年の人生の中でも初めての出来事です。

 

しかもこれ以降、

◾️5年以上推していた俳優に対して(ほぼ)担降り

◾️同一作品複数回観劇→1作品1回を大量観劇

◾️観劇ジャンルの傾向転換(エンタメ系→史実・硬派)

などと、観劇スタイルが大きく変わりました。

 

なんなら漫画か啓蒙書かビジネスマナー本しかなかった家の中にナチスドイツ史やホロコースト史か、その時代にかかる劇作家や、暗号史の本コーナーが出来ました。

あまりにものめり込みすぎて、史実から学ぼうと思ってしまったんですよね。

しかも、文献を読めば読むほど、野木萌葱先生の「史実」と「フィクション」の入れ具合が非常に上手いことがよくわかるんです。

彼らの行った所業の数々について、ちゃんと軽薄化せずに向き合わせているのも私がのめり込んでいる一つの理由だと思います。

 

また、配信してくれ…有料でも良いから…お金出すから……。と切に願っています。

 

ただ、配信も良いんですが、戯曲は戯曲で台本なのか?と思うほどにト書きが書いてあり、そのト書きから爆発的な感情を浴びることも出来ますので、興味ある人は台本から入るのもありかもしれません。

しかも、なんと、12月17日から行われるパラドックス定数新作公演に行なわれます。チラシがすでにめちゃくちゃ不穏です。楽しみすぎる。

 

 

劇団印象『エーリヒ・ケストナー〜消された名前〜』

セルフアドベント企画「観劇感想アドベント

2日目

 

劇団印象『エーリヒ・ケストナー〜消された名前〜』

 

2日目です。早くも残業まみれで挫折しかけてるけど自分用に書き留めたいので、頑張ります。

 

なぜこれを選んだかというと、1日目に記載した『アルトゥロ・ウイの興隆』の作者、ベルトルト・ブレヒトと同じくエーリヒ・ケストナーもナチ党の焚書の被害に遭っていた史実上の人物だからなんですよね。

 

そんな、エーリヒ・ケストナーとは一体どんな人物だったのか。劇中では1923年のナチスの興隆から、1945年の第二次世界大戦終戦までの22年間が描かれ、ケストナーやその友人を中心として描かれた評伝劇がこの『エーリヒ・ケストナー〜消された名前〜』になっています。

 

どうも、ここ一年は『抑圧と抵抗の歴史』に触れることが多く、コロナ禍以降の演劇界のトレンドなのでは?と思っていたりします(昔からそうだったと言われれば、それはそう)

 

今作は、実直な会話劇ではあるんですけど、所々にエーリヒ・ケストナーが書いた作品をモチーフにした演出を見つけることができたので、読んだことある人とかは楽しいかもしれません。

 

個人的には、レニ・リーフェンシュタールが戯曲の中に取り込まれていたのが、アクセントになっているなと思っていて、彼女を演じた今泉舞さんが美しカッコ良い女性なので再演も出てくれないかなぁと思っています。

そもそも誰?ってなる方もいると思うので、ざっくりと説明すると、彼女はナチズムに協力した映画監督して、非難され続けた(今もそう評価されている)女性です。ダンサーから転身し、のちにナチスプロパガンダ映画を完成させ、ヒトラーの右腕とも言われることのある彼女は、度々エーリヒの前に姿を表します。

 

エーリヒ・ケストナーの芸術家としての矜持と、恐怖による創作への挫折、そこからの希望の流れも含めて、戯曲としてめちゃくちゃ良かったのですが、レニが強い女性として存在するために得た芸術家としての在り方には考えさせられるものがありました。

 

行く末を知っているからこそ信じられる希望があるとかも良いなぁと思いました。

 

現在、劇団印象では「国家と芸術家」三部作公演と題して、シリーズとして国家に翻弄された芸術家たちの舞台を行なっており、本作も再演されるとのことなので、気になった人は見て欲しいなと思います。

 

まーた、ギリギリ入稿なので、おそらくこれからまた補正します。

明日は余裕持って描きたいな……。

 

2022年1月10日追記

劇団印象さん、エーリヒじゃなくてカレル・チャペックで新作ですって…めちゃめちゃ楽しみです…

アルトゥロ・ウイの興隆(1日目)

セルフアドベント企画「観劇感想アドベント

1日目

 

『アルトゥロ・ウイの興隆』

 

1日目なので、私の中で1番ホットな舞台を取り上げることにしました。

 

舞台は不況にあえぐシカゴ。そこで、1人のギャングが暴力的な支配力を以って強大な支配者へとなっていきます。

 

1人のギャングの名は「アルトゥロ・ウイ」

 

タイトルにも名が入っているこの男が如何にしてのし上がっていくのか。

実は、このストーリーは1920年代後半から30年代にかけてのドイツにおけるヒトラーとナチ党の台頭を写し変えて作られており、私たち観客は『熱狂』を真に体感することになります。

 

めっちゃ怖いんですよこれ!!!??

 

2020年はコロナ禍直前だったのでマスクなしの人も多くて声出して煽り煽られをしていた認識なんですけど、2021年の今年はマスクをして声を出さないからこそ、制限される恐怖みたいなのもあり、余計怖かったです。

 

しかも今回は二階席、俯瞰して見られるぞぉ〜!とワクワクして行ったら、客観的に見すぎて周りの賛成だと手を挙げる姿にゾッとしてしまい、カテコ前は拍手せずに呆然としました。

 

ウイがのし上がるまでには、いくつも転換期があります。そこで抑えられたかもしれないことは、ウイ率いるギャング団により亡き者とされ、最終的にはウイはカリスマ性のある統治者として描かれていく。私たち観客は熱狂の裏にある、抵抗した人間の屍に見てみぬふりをし、ウイのカリスマ性に心酔するか、自らが殺される恐怖に怯えながらあの渦に巻き込まれなくてはいけないのです。

 

しかも、この熱狂が歴史的事実を体感させられていることに気づいた瞬間、現実を振りかえざるを得ないのです。私たちはまた、この熱狂を現実に引き起こしていないかを確認せねばならないと、そう思わされる。

 

これってすごいことなんじゃないか?と本気で思います。

 

白井晃演出は暴力的な背景も綺麗になりがちな気もしますが、そこが逆に怖いなって今回初めて気付きました。怖すぎ白井晃。入り込みやすい分、その怖さに気づいた時にはすでに穴に蹴落とされている気分です。

 

これはぜひ生で見て欲しいと心底思う舞台なので、お時間ある方はぜひチケット取って見に行って欲しい。

豊洲PITとかどうやってやるんだ…と気にはなってます。

関西在住の方は京都公演あるんで是非。

 

https://arturoui-stage.com/

自己紹介

みなさん、はじめまして。

さわらと申します。

 

転勤族営業マンをしながら趣味の観劇に日々を費やしている、言わば舞台オタクです。

ここは、自分が観た舞台の感想や舞台に関するまとめを書くところにしたいと思います

 

Twitter→@35sawara

【ご参考】

DVD販売イベ等抜かした、純粋に演劇作品観た時の作品数と総回数(6年分)

※およその目安、2021年以前はDVDや配信の記載がない場合もあるため。

2016年:27作品(配信2)、36回

2017年:25作品、37回

2018年:41作品(配信5)、88回

2019年:63作品、109回

2020年:76作品(配信44)、91回

2021年:127作品(配信82)、144回

2022年:144作品、166回(12月1日現在)